【坐骨神経痛】とは
「坐骨」は骨盤の一部です。「坐骨神経」とはその坐骨を通り、お尻の「梨状筋」という筋肉を抜けて足に向かう末梢神経のひとつです。足先まで約1mにわたり通っています。
坐骨神経痛はどんな痛み?主な症状
「坐骨神経痛」とは、腰椎の椎間板や神経の通り道である脊柱管が圧迫されて、腰からお尻・下半身の痛みやしびれを起こすこと。坐骨神経痛の症状は個人差がありますが、主に以下のとおりです。
《坐骨神経痛の主な症状》
・腰から足先にズーンとした重さを感じる
・腰から足先にピリピリ痛みを感じる
・腰をそらすことができない
・お尻が痛くて椅子に座れない
・足がしびれて感覚がなく、歩くことができない
妊娠中は全期間をとおして、坐骨神経痛になりやすいもの。特にお腹が大きくなる妊娠7ヶ月ごろが、一番なりやすいようです。その中でも、急激に体重増加した妊婦さんに発症する可能性が高いです。また、もともと「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰椎脊柱管狭窄症」がある妊婦さんは、坐骨神経痛になりやすいです。
妊婦が坐骨神経痛を放置すると?
坐骨神経痛が続くと、その痛みやしびれが精神的にも悪影響を及ぼします。断続的に続く痛みやしびれで、夜眠れなくなったり、思うように身体を動かせず抑うつ状態、気分が不安定になったりします。
妊娠中に引き起こされる坐骨神経痛を放置すると、産後も同様に坐骨神経痛に悩む可能性があります。産後は赤ちゃんのお世話が忙しく、治療に行くことは難しいでしょう。できるだけ妊娠期に坐骨神経痛にならないように注意し、もし坐骨神経痛になった場合は妊娠中の治療をおすすめします。
妊婦が坐骨神経痛になりやすい理由
妊婦さんが坐骨神経痛になりやすい原因について、詳しく解説します。
坐骨神経痛の原因1. 妊娠による女性ホルモン
妊娠すると、赤ちゃんの成長に伴い子宮が増大します。そして子宮を囲っている骨盤は、出産に備えて少しずつ緩みだします。その時に骨盤を緩ませるのが、「リラキシン」という女性ホルモンです。リラキシンによって骨盤が開いてくると、骨盤周囲にある坐骨神経が刺激され、痛みやしびれが出るようになります。
坐骨神経痛の原因2. 姿勢の変化
子宮の中で赤ちゃんが成長すると、ママはその重さを支えようと反り腰になります。また急激な体重増加によって、腹部や腰回りに過剰な脂肪がつき、それを支えるため反り腰になってしまうことも。
反り腰は骨盤を支える筋肉に負担をかけるほか、椎間板や神経の通り道である脊柱管を圧迫し、坐骨神経痛の症状を引き起こします。
坐骨神経痛の原因3. 梨状筋の緊張
様々な筋肉や靭帯が骨盤を支えています。腰と大腿骨をつなぐ「梨状筋」もそのひとつ。梨状筋の下には坐骨神経が通っており、骨盤が広がると梨状筋が緊張し、坐骨神経を圧迫して坐骨神経痛を引き起こしてしまいます。
【妊婦の坐骨神経痛】治し方
妊婦さんの坐骨神経痛を治す方法、生活での注意点について詳しく解説していきます。
妊婦もできる!坐骨神経痛の治し方と痛みの緩和方法
坐骨神経の治し方や痛み・しびれの緩和方法は様々ありますが、代表的な方法を紹介します。
1. テニスボールでマッサージ
腰からお尻をテニスボールでマッサージして、骨盤周囲の筋肉の緊張をほぐすと症状が和らぎます。坐骨神経痛で悩む妊婦さんには効果的です。
テニスボール2つを、腰のあたりの背骨に置いて仰向けになります。身体全体でテニスボールを転がすようなイメージで動きます。テニスボールを自分で移動させ、力加減を調整できるので、無理なくマッサージができます。ただし長時間の仰向けは、「仰臥位低血圧症候群」を起こし身体に負担がかかります。短時間で行いましょう。
2. 下半身のストレッチ
前述したように、腰のあたりから下半身に伸びる坐骨神経の周囲には、筋肉があります。この筋肉の緊張をとることで、坐骨神経痛の症状を和らげることができます。妊婦さんの坐骨神経痛の症状緩和に効果的なのが、両足を開脚した前屈ストレッチです。
両足を開脚し、左右どちらかの足裏を足の付け根につけて、その体勢で前屈姿勢をとります。伸ばした方の足の太腿裏側、内側、腰、お尻の筋肉の緊張がほぐれ、気持ちよくなります。無理のない範囲で行いましょう。
3. ツボを刺激
坐骨神経痛の症状緩和に、効果的なツボを紹介します。痛みを感じない程度に、拳やテニスボール、指先等で刺激しましょう。
ツボの名称 |
ツボの位置 |
作用 |
坐骨点(ざこつてん)
|
お尻の出っ張りの一番高い部位の左右に位置する。お尻全体に力をいれると、左右2か所くぼむ位置 |
骨盤周りの血行を良くして緊張をほぐす |
委中(いちゅう) |
ひざ裏の中心にあるツボ |
足のしびれや張りを緩和する作用がある |
承扶(しょうふ) |
お尻と太腿の境目にあるツボ |
お尻や股関節の動きをスムーズにし、痛みを緩和する |
4. マタニティ整体
自分ではどうしようもない症状は、専門家に診てもらうといいでしょう。マタニティ整体の資格を持つ整体師や助産師であれば、しっかりと身体の調子を診てくれます。妊婦さん専用の整体なら、安心ですね。
5. 身体を温める
身体を温めると、痛みやしびれが和らぎやすいです。症状がある部位を、カイロや温湿布で温めてみましょう。温かい飲み物でも身体が温まり、症状改善につながります。部分的に温める時は、低温火傷に注意してください。
6. ゆっくり休む
痛みやしびれが強い時は、無理に動かずに身体を休めることも大切です。無理して動くと悪化する可能性があります。安静にしたほうが改善することもあるので、身体を横にしてゆっくり休みましょう。症状がひどい時は、身体を休めることが大切。家事などの立ち仕事はパートナーに頼ったり、仕事での重い荷物は同僚に運んでもらうなど、腰に負担をかけない生活を心がけましょう。
【妊婦の坐骨神経痛】辛い時の注意点
坐骨神経痛症状が辛い妊婦さんは、「痛み止めを飲みたい!」と思うかもしれません。しかし安易に薬に頼ると、お腹の赤ちゃんの成長に影響を及ぼす可能性があります。自己判断で薬を飲んだり、消炎鎮痛作用のある湿布を使用したりするのは、絶対にやめましょう。
必ずかかりつけの産科医に相談して下さい。赤ちゃんへの影響が少ない鎮痛剤や、湿布を処方してくれる場合もあります。自己判断で薬を使わないようにしましょう。
また、ストレッチやツボ押しにも注意が必要です。たとえば切迫流産:切迫早産の傾向があれば、ストレッチを含む運動は禁忌です。切迫早産では押してはいけないツボの部位がありますので、もし心配であれば専門家の指示を仰ぎましょう。
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【妊婦の坐骨神経痛】予防策
妊婦さんが坐骨神経痛にならないためには、何に気をつければいいのでしょうか。予防策について紹介します。
坐骨神経痛の予防策
坐骨神経痛の予防には、以下のような方法があります。
■身体を冷やさないようにする
冷えは血流を悪くして、筋肉の緊張を強くします。できるだけ身体を冷やさないように心がけましょう。太腿、お尻など脂肪が多いところは冷えやすいため、意識的に温めましょう。
■寝るときは抱き枕を使用する
寝る時は身体を抱き枕に預け、抱きかかえるようにしてシムス位で休むようにしましょう。痛みがある方を圧迫されないように注意してください。
■日頃から運動をする
日頃から運動習慣をつけると、急激な体重増加を防ぐことができます。体重増加をゆるやかにすると、姿勢を保つことができ、反り腰になりにくくなります。また運動すると血行もよくなりますので、筋肉がほぐれ、坐骨神経痛の予防につながります。
■骨盤ベルトを使用する
妊娠すると、ホルモンの影響で骨盤が開き始めます。骨盤とその周囲の筋肉を支えるために、骨盤ベルトの使用をおすすめします。妊婦さんの坐骨神経痛や腰痛を予防してくれるでしょう。
病院受診の目安
セルフケアではどうにもならない症状で、しびれや痛みが日常生活に支障を及ぼす時は、早めにかかりつけの産科医に相談しましょう。出産で体力を使い果たした後、赤ちゃんのお世話をしながら坐骨神経痛に悩まされるのは、とても辛いでしょう。産後であれば整形外科、ペインクリニックを受診してもよいでしょう。
《まとめ》
妊婦さんはホルモンの影響から骨盤が緩みやすく、また姿勢の変化や筋肉の緊張などにより、坐骨神経痛に悩みやすいです。セルフケアで改善されない場合は、かかりつけの産科医に相談しましょう。鎮痛剤や消炎鎮痛効果のある湿布は、自己判断では使用しないように注意してください。
※写真提供:PIXTA
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1999年愛知医科大学卒業
その後大垣市民病院にて研修、勤務を経て安城更生病院へ赴任
2006年日本産婦人科学会産婦人科専門医取得
2008年やまだ産婦人科院長就任
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