【稽留流産(けいりゅうりゅうざん)】の原因とは
妊娠22週未満で妊娠の継続が終了してしまうことを「流産」といい、これには様々な分類があります。「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」とは、流産の症状による分類の1つです。
胎児・胎芽の成長は止まっているが出血や腹痛などの症状はなく、子宮内にとどまっている状態を指します。自覚症状がないため、妊婦さんはまさか流産しているとは思いません。産婦人科での経腟超音波検査で発見されることが多いです。
稽留流産とはなぜ起こる?
稽留流産の原因は、染色体異常が最も多いとされています。受精した瞬間からその受精卵の運命は決まっており、流産のほとんどは妊娠初期に起こります。
妊娠初期の流産は、胎児側に問題があると考えられています。よほどの衝撃を受けない限り、仕事や運動で流産することはほとんどないといえるしょう。
妊娠検査薬は、受精卵から分泌される「ヒト絨毛性ゴナドトロピン」に反応します。これは胎児が亡くなった後も分泌され続けるため、検査薬は陽性反応を示します。黄体ホルモンの分泌も続き、基礎体温は高温期が継続します。
稽留流産が起こる時期と確率!兆候はあるの?
流産の確率は全妊娠の15%と高く、6~7人に1人が流産を経験していることになります。そしてそのうちの約80%が、妊娠12週未満に起こる妊娠初期の流産です。
流産の確率は年齢を重ねるごとに高くなり、これは卵子の老化が原因とされています。卵子は胎児期に作られるため、一生のうち排卵する数は決まっています。女性が年を重ねると、卵子も老化していきます。
20代・30代・40代ごとに、流産確率の平均を以下に述べます。
20代 |
8~20% |
30代 |
20~25% |
40代 |
30% |
このように20代より30代、30代より40代で流産率が高くなることがわかります。受精はできたとしても、細胞分裂がうまく起こらずに流産に至ってしまうことが多いです。稽留流産も、高齢の妊婦さんの方が起こりやすいといえるでしょう。
稽留流産では出血や腹痛がないため、超音波検査で発見されることがほとんどです。稽留流産の兆候として、「週数に対して胎嚢が小さい」「心拍確認が遅い」「心拍数自体が遅くなっている」ことがあります。これらには排卵日の遅れや週数による差があり、一概には言えませんが、兆候の1つとして考えてもよいでしょう。
その他にも、「胸の張りやつわりが急になくなった、もしくは元々全くない」「基礎体温が下がった」「下腹部が冷たく感じる」などの兆候が見られる場合もあります。
つわりと稽留流産の関係
つわりは全妊婦の50~80%に起こるとされています。今まで辛かったつわりが急に軽くなる、もしくはなくなったら「流産の兆候?」と不安になるかもしれません。実際に流産した妊婦さんの中には、急につわりがなくなって受診をしたら流産していた、という人もいます。
しかし流産していてもつわりが続くことはあり、実際はつわりだけで流産の判断はできません。不安があれば抱え込まず、心配な時は産科医に超音波検査をしてもらいましょう。
稽留流産と診断されたら?処置方法とは
稽留流産と診断された場合、どのような経過をたどるのでしょうか。その後の流れを見てみましょう。
稽留流産の診断
稽留流産の診断方法はいくつかあります。
1つ目は、超音波検査による心拍の確認です。超音波検査では明らかに胎児が認識できるにも関わらず、心拍が確認できない場合に、稽留流産と判断されます。
胎児の心拍は妊娠5週後半頃から確認でき、妊娠8週頃には100%確認できるようになります。CRLが15mm以上、つまり妊娠8週相当の胎芽の時点で心拍が確認されないと、稽留流産と判断します。
妊娠5週頃に産婦人科を初診すると、胎嚢確認のみのケースがほとんど。2週間後に再診して胎児の心拍が確認できなければ、稽留流産と診断されます。
2つ目は、既に確認していた胎児の心拍が見えなくなった場合です。このころ胎芽の成長は著しく、日に日に成長を遂げていきます。一度あった心拍が消えてしまうと、その心拍が再開することはありません。
稽留流産の処置
稽留流産は、子宮内に胎児がとどまった状態であり、流産処置が必要な可能性があります。自然排出を待つのか、早く流産処置をするのか、妊婦さんの希望をまずは確認します。
流産処置をする場合は、日程を設定し、日帰りもしくは一泊入院をします。時間をかけて子宮口を拡張した後、子宮内に器具を挿入して、流産した組織を搔き出し吸引します。早期の手術は子宮内感染を予防し、流産に伴う出血・腹痛などの症状をなくすことを目的とします。
胎盤から出るHCGの分泌を止めることで、妊娠に伴うつわりなどの不快症状も止めることができます。
流産した後の注意点
流産手術は子宮内を搔き出すため、細かな傷が残る場合もあります。手術後は子宮をしっかり休ませる必要があります。流産後2~3ヶ月は妊娠を避け、まずは心と身体をしっかりと休ませましょう。
稽留流産に予防策はある?
残念ながら、稽留流産を予防することはできません。妊娠初期の流産はほとんどが受精卵の異常によるもので、その運命は決まっているからです。しかしそうではない場合、少しでもリスクを減らせるように日常生活を工夫することも大切。具体的な過ごし方を見ていきましょう。
流産リスクを高めるタバコは止める
妊娠中の喫煙によって、自然流産のリスクが高くなります。タバコは止めましょう。また妊婦さん自身は喫煙しなくても、配偶者などの喫煙による副流煙でも同等のリスクがあります。家族が喫煙していたら、禁煙や分煙に協力してもらいましょう。
アルコールを控える
妊娠中の飲酒は、自然流産率や胎児の奇形率を高めます。アルコールは胎盤を通じて胎児に運ばれ、胎児アルコール症候群の発症にもつながります。妊娠中は禁酒しましょう。
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肥満を防ぐ
妊婦さんが適性BMIを著しく超えると、自然流産率が高まります。栄養バランスを考え、健康的な生活習慣を身につけましょう。流産はもちろん妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、妊娠経過に伴うトラブルの予防にもつながります。
デリケートゾーンを清潔に保つ
流産・早産の原因のひとつである、絨毛膜羊膜炎(膣内の細菌による卵膜の炎症)を防ぐことは非常に大切。これは細菌感染によって起こるため、デリケートゾーンを清潔に保つように心がけましょう。特に妊娠中の性交渉では、必ずコンドームを使用しましょう。
ストレスをためない
ストレスが直接流産につながるわけではありませんが、妊娠中はできるだけ気持ちをゆったりもって、ストレスをためない過ごし方をしましょう。自分の好きなことをしてリラックスする方法を考え、ストレスと上手に付き合うことも大切です。
《まとめ》
稽留流産は、妊婦さんの注意で防げるものではありません。しかしできるだけリスクを減らせるように、日常生活を心がけることも大切です。年齢とともに流産率が上がるという事実も重要なポイントですので、理解して注意しましょう。
※写真提供:PIXTA
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1999年愛知医科大学卒業
その後大垣市民病院にて研修、勤務を経て安城更生病院へ赴任
2006年日本産婦人科学会産婦人科専門医取得
2008年やまだ産婦人科院長就任
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