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2022.06.27
帝王切開は痛い?【産科医】産後の傷跡や痛み&過ごし方とは
帝王切開の出産が決まってしまった場合、それはどれほど痛いのか、いつまで痛みが続くのか気になりますよね。痛みを和らげるためにはどんな方法があるのか、退院後の日常生活に支障がないのか、知っておきたいことでしょう。今回は帝王切開の痛みや、それを和らげる方法について理解を深めていきましょう。帝王切開後の過ごし方についても、産科医師が詳しく解説していきます。
目次
帝王切開とはどんな手術?帝王切開になるケースと流れ
「帝王切開」とは、普通分娩が厳しい場合に選択される出産方法のひとつです。子宮を切り開き赤ちゃんを取り出す、開腹手術として扱われます。ここでは帝王切開について説明していきます。
帝王切開の確率は5人に1人
2017年の厚生労働省の報告によると、帝王切開になる確率は約5人に1人と言われ、その件数は1990年に比較して約1.8倍も増加しています。背景には、女性の社会進出による晩婚化・高齢妊娠・高齢出産が挙げられます。
高齢出産になればなるほど、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、子宮筋腫などの妊娠合併症を引き起こす割合が増えます。自然分娩でのリスクが高まるため、帝王切開が増えています。
また不妊治療によって授かった貴重児の場合、自然分娩のリスクを回避するために、あえて帝王切開を選択することもあります。
このように帝王切開の理由は様々ですが、赤ちゃんを無事に産むための方法であることは変わりありません。
帝王切開の種類は2つ
帝王切開は、「予定帝王切開」と「緊急帝王切開」の2種類に分類され、それぞれに適応条件があります。
■予定帝王切開
「予定帝王切開」とは、以下のような場合に行われます。
・逆子(骨盤位)
・双胎妊娠を含む多胎妊娠
・前置胎盤
・児頭骨盤不均衡
・子宮筋腫核出などの子宮手術既往歴
・前回の分娩が帝王切開
・心疾患、脳血管疾患などの母体合併症がある
・不妊治療によって授かった貴重児
基本的には、妊婦さんと産科医師が相談して、帝王切開手術の日程を決定します。
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■緊急帝王切開
「緊急帝王切開」が行われる場合、母体側と胎児側それぞれに理由があります。
【母体側による理由】
・常位胎盤早期剥離、前置胎盤による大量出血、臍帯脱出、予定帝王切開前の陣痛発来や破水が起きた場合
・妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの妊娠合併症が悪化して、胎児に悪影響があると判断された場合
【胎児側による理由】
・心音低下などの、胎児機能不全に陥った場合
・自然分娩中や回旋異常における遷延分娩(分娩が長引くこと)
・吸引分娩や鉗子分娩を試みたが、赤ちゃんが娩出できない場合
このように帝王切開の予定がなくとも、母体側や胎児側の何らかの理由により行われる、緊急の帝王切開を指します。
帝王切開の流れとは
帝王切開とは具体的に、どのような流れで行うのでしょうか。解説していきます。
1. 同意書の確認
同意書にサインがなければ、帝王切開はできません。予定帝王切開、緊急帝王切開のどちらも必ず、医師からの説明があります。説明を聞き理解した上で手術同意書、麻酔同意書などにサインします。疑問に思ったこと、不安に感じたことはそのままにせず、必ず医師に確認しましょう。 |
2. 手術前の前処置
手術前の前処置として、前日の夜以降は絶食、当日朝から絶飲食となる事が多いです。当日は浣腸や剃毛、点滴、直前に尿管留置が行われます。(尿管留置は麻酔後の場合もあります) |
3. 麻酔の開始
予定帝王切開の場合は、硬膜外麻酔もしくは腰椎麻酔が基本です。麻酔科医が背中より針を刺して麻酔をかけ、妊婦さんの体調や効果を確認しながら進めていきます。緊急の場合は、全身麻酔になることもあります。 |
4. 手術の開始
手術が開始されると、医師は開腹して子宮を切開し、赤ちゃんを娩出します。手術時間は40分~60分程度です。 |
5. 赤ちゃん誕生
赤ちゃんが産まれると、医師から助産師へ赤ちゃんを受け渡し、処置を行います。赤ちゃんの状態によっては、小児科医が立ち会うこともあります。局所麻酔で妊婦さんの意識があるため、赤ちゃんとの面会や写真撮影が可能です。 |
6. 縫合開始
赤ちゃんとの対面後、自然に溶ける糸で縫合を開始します。皮膚は医療用ホチキスや医療用テープで閉じるのが一般的ですが、病院や医師の方針・技量により異なります。 |
7. 病室へ戻る
問題がなければ病室へ戻ります。手術当日は医師の指示のもと、助産師や看護師が、血圧や体温、脈拍、呼吸の測定、出血量や尿量の確認、全身状態の観察を行います。 |
入院期間は出産施設によって少し異なりますが、自然分娩の入院期間が4~5日であるのに対し、帝王切開の場合は7~10日前後となります。傷の痛みや術後合併症などの有無を確認しつつ、体調を見ながら、赤ちゃんのお世話や授乳方法を学んでいきます。退院した後も、体調が元に戻るまで1~2ヶ月はかかります。ママは一人で頑張りすぎず、周囲に頼りましょう。
帝王切開のリスクとは
帝王切開で考えられるリスクは、血栓症や縫合不全、腸閉塞、尿路感染症などの術後合併症、手術の痛みや傷跡が残ることなどです。病院では、術後合併症が起こらないように注意深く観察し、痛みをコントロールできるように援助してくれます。体調に変化があったり痛みが強くなった場合は、我慢せずにすぐに伝えましょう。
【帝王切開の痛み】痛いのはいつまで続く?ピークは?
帝王切開の痛みには、傷の痛みと後陣痛の2種類があります。
帝王切開による「傷の痛み」はいつまで?
傷の痛みは、術後当日から2日目くらいがピークという人が多いです。
術後1日目までは通常、硬膜外麻酔カテーテルが背中に留置されています。それでも強い痛みにより、ベッドから起き上がれない、授乳が開始できないこともあります。その場合は座薬や内服薬を併用して、痛みのコントロールをしていきます。
術後3日目からは自然と痛みが落ち着いてきて、行動範囲が広がってきます。ただし腹圧をかける体勢や動作によっては、傷口に痛みが出ることがあります。退院後も日常での行動には注意しましょう。
傷の表面に何かが当たると回復が遅くなったり、その部分だけケロイドになることもあります。傷全体を覆うための薄い布を当てて、深めのショーツをはくようにしましょう。
帝王切開後の「後陣痛」の痛みは?
後陣痛とは、子宮が元の状態に戻ろうとして起こるもの。初産婦さんよりも経産婦さんの方が、後陣痛が強い傾向にあります。乳頭を刺激されると出る「オキシトシン」というホルモンによっても、子宮収縮が促されるため、授乳時に後陣痛を感じやすくなります。後陣痛のピークは、出産当日から3日目くらいでしょう。
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帝王切開後の過ごし方&痛みを和らげる方法
帝王切開は開腹手術なので、どうしても自然分娩より身体への負担が大きくなります。ここでは、帝王切開後の過ごし方と、痛みを和らげる方法を紹介します。
帝王切開後の過ごし方
帝王切開後は術後合併症の予防のため、できるだけ早期に座位、立位、歩行を行います。当日より寝返りを開始し、翌日には尿道カテーテル抜去や離床が進められます。動くことで痛みが強くなるため、頓服の鎮痛剤で痛みを和らげましょう。赤ちゃんのお世話や授乳も、術後1日目より体調を見ながら開始していきます。
退院してからも1ヶ月間は赤ちゃんのお世話を中心に、寝たり起きたりの生活を心がけてください。パートナーや家族、行政の子育てサポート、家事代行などを積極的に頼りましょう。
痛みを和らげる5つの方法
もしも痛み止めがあまり効かない場合は、痛みを和らげる以下の方法を試してみましょう。
■1. テープで傷跡を保護する
傷が完全にふさがると、専用のテープで傷口を保護。洋服など衣類の摩擦によって生じる痛みを、緩和することができます。
■2. 腹圧のかからない体勢をとる
身体を横にして丸まる、あるいは抱き枕を抱えて寝ることがおすすめです。腹圧がかからない、楽な体勢をとるようにしましょう。
■3. 温罨法(おんあんぽう)で腹部を温める
痛みの緩和には温罨法がおすすめです。カイロや湯たんぽを腹部に当てて、血流を促進し、痛みを緩和していきましょう。
■4. 下腹部をマッサージする
痛みの部位をマッサージすることで、血流が促され痛みを和らげることができます。シクシクするような痛みを感じ出したら、下腹部をマッサージしてみましょう。
■5. リラックスできる方法を考える
痛みを感じているときは、交感神経が優位になっています。副交感神経を優位にするために、深呼吸、アロマや足浴などをして、身体の力を抜きリラックスしてみましょう。リラックスできると、痛みを和らげることにつながります。
産科医師が答える!よくある帝王切開の疑問
ここでは、帝王切開についてのよくある疑問にお答えします。
Q. 一度帝王切開で出産した場合は、次も必ず帝王切開になる?
- 多くの病院で、一度帝王切開をしたママには、次回も帝王切開をすすめています。すでに子宮を切開しているため、出産時に子宮に強い力がかかることにより、子宮破裂を起こす可能性があるからです。TOLAC(トーラック)といって、帝王切開の既往がある妊婦さんに一定の条件つきで、自然分娩にトライできる施設もあります。
Q. 帝王切開の「縦切開」と「横切開」はどう違う?
- ほとんどの帝王切開は、子宮を横に切開する「子宮体下部横切開」です。この方法は子宮に与えるダメージが少なく、次回も安全に帝王切開ができます。緊急帝王切開の場合は、赤ちゃんへのダメージを少なくするため、もしくは子宮筋腫等を避けるために、縦に子宮を切開することもあります。縦に切開すると、次回の帝王切開時に子宮破裂を起こす可能性が高まります。手術の説明を受ける際に、メリットとデメリットを確認しましょう。
- またお腹を縦に切るか、横に切るかの違いについてです。縦の方が手術がやりやすいというメリットと、横のほうが傷がきれいに治りやすく、目立ちにくいというメリットがあります。これも病院や医師の方針、技量により違いがありますので、手術前に確認しておくと良いでしょう。超緊急手術の場合は、胎児の救出優先で縦切開一択の場合があります。
Q. 帝王切開で生まれた赤ちゃんは体が弱い?
- 帝王切開で生まれた赤ちゃんは産道を通らないために、肺が弱くなったり、ママの腸内細菌をもらえないため健康状態に差がでる、という噂があります。しかし、これはまったく根拠がないものです。
- 確かに帝王切開で生まれた赤ちゃんは、羊水を飲み込んでしまう可能性が高く、一過性の多呼吸になることはあります。しかしそれが、肺の弱さに関係するという根拠はありません。また産後の授乳などで、ママの常在菌をたくさんもらいます。帝王切開だからと言って、身体が弱くなることはありません。
《まとめ》
帝王切開では、傷の痛みと後陣痛の2種類を経験しなければならならず、身体への負担が大きくなってしまいます。産後は無理をせず、できるだけ赤ちゃんのお世話のみに集中し、身体を休めましょう。
※写真提供:PIXTA
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ママのお悩みの声
1999年愛知医科大学卒業
その後大垣市民病院にて研修、勤務を経て安城更生病院へ赴任
2006年日本産婦人科学会産婦人科専門医取得
2008年やまだ産婦人科院長就任
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